日本福祉大学主催「JAGES-ELSA国際ワークショップin TOKYO」を開催

日本福祉大学健康社会研究センター(CWS)は,2013年3月2日に,日英の高齢者の健康と健康格差の国際比較研究に向けたワークショップを開催した.英国では高齢者の健康や経済,QOLに関する縦断研究調査English Longitudinal Study of Ageing (ELSA, http://www.ifs.org.uk/ELSA)が,2002 年から現在まで,5回のパネル調査(繰り返し調査)を実施している.CWSにおいても,1999年から縦断研究を実施しており,JAGES:Japan Gerontological Evaluation Study,日本老年学的評価研究へと拡大してきた.2010年調査では,ELSAの研究チームメンバーと協力し,JAGES調査の一部質問項目をELSA調査Wave5と比較可能な項目にしている.このデータ等を用いて国際比較研究を進めるため,ELSA 実施チームの中で大きな役割を果たすロンドン大学の疫学・公衆衛生学部の学部長であるRichard Watt 教授およびELSA のデータ分析の経験を持つGeorgiosTsakos講師,Noriko Cable 先生を日本に招き国際シンポジウムを開催した.国際比較研究の可能性と実施上の課題,具体的な研究計画や研究仮説,両調査のサンプリング方法などの研究デザインにおける共通点と差異,質問票の共通・類似項目などについて論議した.

(10:30−10:45 Overview of JAGES)
近藤克則教授より,JAGES2010の概要と分析例,これまでの成果についての説明がなされた.photoサンプリング方法や,データの説明(調査データ,市町村データ,住所データ),JAGES HEART (Japan Gerontological Evaluation StudyHealth Equity Assessment and Response Tool,日本老年学的評価研究による健康の公平性評価・対応ツール)によるベンチマーク・システムが紹介された.JAGESプロジェクトは,日本における健康格差の実態を明らかにし,健康の社会的決定要因を科学的に分析する社会疫学的な手法により,その解明を試みている.それらの成果によって,健康日本21(第2次)や,介護予防に関わる政策への貢献に寄与することを目指しており,また,学際的な研究チームにより,研究成果の蓄積も進んでいることが紹介された.

(10:45−11:00 ELSAの概要と詳細な調査項目)
Prof. Richard Wattより,ELSAについての概要説明があった.photoELSAは複数の研究機関のコラボレーションにより,50歳以上の人々の経済的・社会的状況をはじめとする幅広い事柄についての研究であり,連合王国でなく,イングランドのみの研究である.縦断的にAgeingのダイナミクスを解明することが目的とされ,ELSAの特徴としては次のことがあげられる.@多分野共同研究(心理学,社会学,医学,歯学など), Aイングランドの代表サンプル(the Health Survey from Englandからサンプルを集めている), B縦断研究(2年ごとに調査), Cオープンアクセス (2次利用可能)などである.そのほか,2002年から2年おきに実施されている各Waveの説明などがあった.

(11:50−12:25 Dental research from JAGES)
相田潤准教授より,JAGESの歯科研究の紹介がされた.これまでの研究成果として,歯科医院までの距離,所得格差,要介護状態の発生,義歯使用と認知症発症,義歯使用と転倒などの指標との関連が認められたことが報告された.また,山本龍生准教授よりコホート研究によって義歯使用と転倒,義歯使用と認知症発症との間に関連が認められたことについての報告があった.

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(13:20-13:30 Potential research hypothesis b/w JAGES and ELSA(Prof.Watt) UK-Japan collaborative Research Agenda )
根本的な部分で似たようなアイディア(SDHなど)をELSAとJAGESは持っている.日英が共同研究を通じて互いに何を得るかに合意を持っておくべきとの考えを示された.今後のどんな可能性と課題があるのか共有がなされた.共同研究により成果が増えることは,日英にとっても有意義なことである.その後,近藤克則教授より3つの研究課題@Inequalities in health,ASC and health,Bdifferent social policyの提案や,JAGESとELSAのサンプリングの違いの説明があった.

(13:40〜 JAGESとELSAの具体的な比較項目及び比較研究案について 相田潤准教授(東北大学大学院歯学研究科):「JAGESとELSAの具体的な比較項目についての説明や検証課題の提案」 )

安達啓子助教(愛知学院大学歯学部):「Higher community-level SC is associated. with lower possibility of edentulous」
虫歯の数は歯科医によって判断が異なるが,無歯edentulousについては信頼性の高い指標であり,死亡と同じように客観的な指標として使える.それとSCとの関連を分析したい.

山本龍生准教授(神奈川歯科大学社会歯科学講座):「International comparison of the factors associated with the use of dentures」 
2国間で義歯使用の要因は似ているか異なるか.決定因の影響力はどの程度異なるかを検証する.

坪谷透助教(東北大学大学院歯学研究科):「Cross-national comparative research on social support」
Marmotの“Why are the Japanese living longer?”論文(1989)では,医療,保健サービス,遺伝子(あまり関係ないという結論だったが),食生活,社会経済的要因,労働,文化や社会ついて検討されていた.しかし,社会的サポートや社会参加について取り上げられていなかった.日本の長寿の秘訣は何か?について,この視点から分析したい.

山田実助教(京都大学大学院医学研究科),松本大輔助教(畿央大学健康科学部):「Relationship of BMI to fall incidence of older adults」
肥満者(BMI>=30)は全世界で増加傾向だが,日英には肥満者の割合に大きな差がある.JAGESではBMI22-23.9の人が一番多く,この層が最も転びにくい.年齢・性別を調整しても,やせ(<18)と肥満(≧26)に転倒が多いことは同じだった.転びやすいBMIには日英で違いがあるのでは?BMIと転倒の関係は日英で似ているのか?などの検証をしたい.

斉藤雅茂准教授(日本福祉大学社会福祉学部):「Relative deprivation and oral health」
相対的剥奪の各指標と自記式Oral healthとの関連を分析したところ,剥奪されているほど残歯数が少ない可能性がある.社会的排除や相対的剥奪は日本でも大きな関心を集めているため意義がある.

(15:20〜 総合討論 )
Prof. Richard Wattより,日英比較研究についての具体的な提案が説明され,以下のような課題の討論があった. oral health とgeneral healthの共通のリスク要因・状況,レジリエンス(逆境におけるコーピングメカニズムの探索),健康格差の日英比較,健康格差の日英比較と福祉国家の役割(政治的要因),死亡や入院の予測因としてのoral health,良好なoral health・healthへの生物的・心理的トラジェクトリ,リスク行動のクラスタリング,主観的なoral healthやQOLの文化間比較,介入研究についてなど. また,近藤克則教授より,愛知県武豊町での介入研究事例発表があり,その後介入研究についての議論があった.その後,今後にむけてのaction planについて話し合われ,4月6日にセミナーを行うこと10個の研究課題について,チームをつくって研究を進めることが確認された.

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(16:35-16:50 Closing comments)

本ワークショップの開催には,公益財団法人長寿科学振興財団の長寿科学総合研究推進事業(国際共同研究事業),厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合研究事業)「介護保険の総合的政策評価ベンチマーク・システムの開発」(H22-長寿-指定-008)の助成を受けたものである.記して感謝します.

開催概要
【日時】2013年3月2日10:30-17:00
【場所】国立社会保障人口問題研究所
【招聘研究者】Prof. Richard Watt,Dr. GeorgiosTsakos,Dr. Noriko Cable(University College London) 参加者 計31名

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