国際シンポジウム「災害下におけるソーシャル・キャピタルと健康」"Social capital and health in disaster"を開催

東日本大震災で,人々の「絆」(ソーシャル・キャピタル)が注目を集めています.ソーシャル・キャピタルが豊かだと,被災した人々の健康被害が抑制され,回復が促進されるのではないか,という声は少なくありません.一方,その根拠の多くは事例や経験にとどまり,科学的なエビデンスはまだ限られています.将来への備えとしてソーシャル・キャピタルの位置づけを高めるには,科学的な知見がもっと必要です.エビデンスを増やすことこそ,被災国日本の研究者が取り組むべき課題ではないでしょうか. そんな思いに駆られ国際シンポジウム「災害下におけるソーシャル・キャピタルと健康」を企画・開催しました.シンポジストとして,ソーシャル・キャピタル研究の第一人者Ichiro Kawachi教授(ハーバード大学公衆衛生大学院)をはじめとする研究者をお招きしました. 当日は全国から約60名が参加し,会場からの質疑や意見交換を通して,研究の到達点の確認や,今後の研究課題について議論を深めることができました.

(13:00−13:05) 開会の挨拶

(13:05−14:25) “Social Capital and post-disaster resilience” Prof. Ichiro Kawachi(Harvard School of Public Health)
<報告概要>
ソーシャル・キャピタルとは,社会的ネットワークから引き出される資源であり,それらは,情報,道具的(手段的)サポート,情緒的サポートである.それらの資源がもたらす効果は社会的ネットワークが拡大するに伴い顕在化する.例えば,自分の禁煙が友人の友人の禁煙に影響する,非常時の暴動や窃盗を抑制する,災害時の協働行為を促す,などに見られる.社会的つながりは「非公式の保険“informal insurance”」であり,災害の被災者はそこから経済的,情報的,情緒的サポートを引き出すことが許される.また,住民の要望を権威に届ける上でつながりの良いコミュニティは有用であるし,凝集性の強いコミュニティは退出コストが高いため,住民は震災後のコミュニティ再建に寄与するようになる.災害時にソーシャル・キャピタルが健康保護や復興に寄与することが既存研究でも示唆されている.1995年に発生したシカゴ熱波では,社会的交流の乏しい高齢者に多くの死傷者が見られ,その一方で,教会やクラブなどの集団活動に参加している人は冷房の利いた拠点で過ごすことができる等の理由から死亡率が低いことが示唆された(Klinenberg, 2003).また,Aldrich(2012)は,関東大震災,阪神・淡路大震災,インド洋大津波,ハリケーン・カトリーナの事例から,災害からの復興においてはソーシャル・キャピタルが重要な役割を果たすことを論じている.JAGES2010の調査地域である宮城県岩沼市では,震災前に大規模な社会調査を実施しており,2013年度に追跡調査を実施予定である.そこで,上記理論枠組みに基づき,ソーシャル・キャピタルと健康および復興の因果関係を検証したい.

photo


(14:25−14:35) 休憩

(14:35−15:35) 「災害とソーシャル・キャピタル」澤田 康幸(東京大学大学院経済学研究科・教授)
<報告概要>
災害からの復興において,市場が果たす役割は十分ではなく,人々の共助(ソーシャル・キャピタル)が必要となる.マクロ経済学の領域では,ソーシャル・キャピタルが市場取引や政府の公共財供給を補完する(Hayami, 2009)など,経済発展に寄与することが示されている.災害からの復興という場面においては,被災の程度,ソーシャル・キャピタル,復興の因果関係が明確にされていないが,独裁者ゲーム,信頼ゲーム,公共財ゲーム,最後通牒ゲームといった経済実験手法を用いて,宮城県岩沼市におけるソーシャル・キャピタルの効果を検証することが可能ではないか.

photo


(15:35−15:55)「東日本大震災被災者の仮設住宅の入居方法,ソーシャル・キャピタルと健康」 相田 潤(東北大学歯学研究科・准教授)
<報告概要>
復興の速度を左右する要因には,人口密度,社会経済的状況,地域の経済格差,ソーシャル・キャピタルが挙げられており,災害の脅威を減らすために,技術的対策だけでなく,社会的対策の重要性も掲げられている(Nakagawa & Shaw, 2004; Ahern & Galea, 2006; Aldrich, 2011).特に被災者の健康面においてもソーシャル・キャピタルの役割は重要で,Hobfoll et al. (2007)は災害後の精神保健を保護するための5つの要件の中に,人々のつながりをあげている.その実証研究は,各国で発生した地震,洪水,ハリケーン,暴動(人災)後に行われている.発表者自身も震災から約1年後に岩沼市で調査を行い,ソーシャルサポートの授受が多い人ほど,精神的ストレスが弱いことが明らかとなっている.

photo


(15:55−16:45) 総合討論 コーディネーター 近藤克則(日本福祉大学 健康社会研究センター長)

photo


(16:45−17:00)  閉会のあいさつ

開催概要
【日時】5月25日(土)13:00-17:00
【会場】東京大学経済学研究科・学術交流棟(小島ホール)2階コンファレンスルーム

ページ上部へ戻る